柚子湯

猫をこよなく愛する共働き夫婦の日常

母がしてくれたこと

今週のお題「おかあさん」

 

「そういえば」

久しぶりの帰省中、ふたりで喫茶店に入った時に、母がふと思い出した。

 

「このへんで、高校に行ってるはずの時間にあなたを見たんだよね。」

「ああ、そんなこともあったねえ」

 

コーヒーに気を取られているふりをして、あっさりと返事をしたが、話はつづいた。

 

「何回もあったの?どっか行ってたの。」

「いや、あの1回か2回くらいだよ。制服着てたらどこにも行く所ないから、自転車で走り回って、遅れていったくらい。」

これは本当。多分。

 

「なんで行かなかったの?学校が嫌だったの。」

もうとっくに大人だし、時効でしょ、言っちゃいなさいよ。という様子である。

 

「うーん、嫌というか、分刻みで行動することに違和感があったんだよね」

 

…朝礼、いるかどうか見れば分かるのに毎日繰り返される出席確認。

一日6時間の授業。場合によっては0限目と放課後の補習。

短い授業の休憩の間には、トイレやら次の時間の用意やら、移動教室やら、場合によっては授業の解答の板書を済ませておくように、なんていう数学の先生もいた。

同じ制服、同じ机。決まった区画にチャイムが鳴るまで座っていて動けない。

同じような髪型、同じように染まっていく価値観。

 

ある朝、またあの空間に縛り付けられにいくのかと思うと、面倒くさくなった。

自転車をいつもと違う方向に走らせると、街には買い物袋を提げたおばあちゃんがいて、母親に手をひかれて歩く子どもがいて、車を運転しているスーツ姿のおじさんがいて、自販機にジュースを補充するお兄さんがいて。

こんなにも色々な年代の人が、色々なペースで、日々の生活が行われているというのに。

学校ってやっぱり変なところだ。

変なルールで、それが当たり前のように行動している先生も、学生もみんな変だ。

 

そう、なんとなく感じていたことを思い出し、出てきたのは

「うーん、嫌というか、分刻みで行動することに違和感があったんだよね」

 だった。なんという言葉足らず。

 

母はふーん、といって、

「私が学生の頃はなにも考えずに学校に行ってたけど、感受性が豊かな人はそんな風に感じるのかもね。」

と言い、その話は終わった。

 

 

子どもの時は気づかなかったが、どうも、母は私のことを風変わりな、なんだかよくわからない子だと思っていたらしい。

 

将来の夢をきかれて、『まだ世の中にどんな将来があるのかわからないからなんとも言えないけど、無難だから花屋って言っておこう』という趣旨のことを思っていた5歳。

 

多数決で決まった結論を、司会役の生徒が「これでいいですか、いい人は手をあげてください」とさらに満場一致を求めようとするので「多数決で決まったんだから、あらためて聞く必要はない、決まりましたというべきだ。」と言って、こいつ何言ってるんだという顔をされた10歳。(先生は分かってくれたのが幸い)

 

なんというか、面倒くさい子どもである。

そんなエピソードが多々あったに違いない。

学校さぼり事件だって、人間関係で悩んでて、とか、勉強についていけなくて…という答えを期待していただろう。

「分刻みで行動することへの違和感」ってなんだよ。

 

中学生の時、ものすごくロールプレイングゲームにはまっていて、やり続けていたらテスト前になった。

テスト前はゲームはしないルールだったが、あまりにも熱心にゲームのことを考えている私の姿を見て、母はあきれたのを通り越して、

「そんなに夢中になれるものがあるのはいいことね」

といって、好きにさせることにしたらしい。

 

 

そういえば、勉強もしなさいと言われたこともない。

別にいいのよ、しなくて困るのは私じゃないから、と言っていた。

本当にしなくて数学の先生に呼び出されてちょっと困ったこともあったが、

結果として、大人になったいまも興味を持ったことや必要なことは勉強しているし、それは義務だから、させられているからではなくて、自分がしたいから、面白いからしている。

 

その時は、ラッキー!くらいにしか思ってなかったが、

いま思い返すと母の、

「私にはよく分からないけど、本人がそう判断したならまあいいか。幸運を祈って見守りましょう。」

というのは、娘をひとりの人間として尊重してくれた態度であり、本当にありがたかったなあと思う。

 

自分によくわからないことを、尊重するの難しい。

ましてや自分の子どもなら。

 

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母は私のオットくんに、「うちの長女はちょっと変わってるでしょう、ごめんなさいね。昔からそういうところがあって。引きこもりになったりしないか心配だったけど、ちゃんと遅刻もせずに働いてるみたいだし、いい人と結婚できて良かったわ」

ということを言っていたらしい。

オットよ…それってさあ、本人に言ったらいけないやつじゃないの??

 

結婚して母の胸中を知る。